湖上に人のipadに、全注目が集まった時、
「寛一」
と茂みの奥から声が聞こえた。
湖上に人は、その声に振り返ることなくため息をついた。
「リカ…」
リカと呼ばれた女性は、後ろ手を組みながらスケート選手を真似るようにすいっと足を前に滑らせながらこちらへ向かってくる。
「カーンチ」
ざわめく森。
「え。まさか、東京ラブストーリー…」
と朱鷺がつぶやく。
「なんすかそれ」
と意味がわからないくず餅。
「ちょっとお!くずちゃん東京ラブストーリー知らないのお!」
「しらねっす」
「んもう!ばか!柴門ふみ読まないと日本に住めないルールしらないの!?」
「しらねっす」
「今度貸すから」
「さーせん」
「あ!」
とリス君が声を上げる。リカはすいーっとそのまま湖を渡り、湖上の人の周りをぐるぐる回る。
「カーンチ」
湖上の人は目線をリカに合わせない。
「その名前で呼ぶなし」
「カーンチ」
「お前とは、もう終わったんだ!もうお前に振り回されたくないんだよ」
「…カーンチっ…」
リカが小さく息を吸い込む。
ま!まさか!
「どぅわわわわわあああんああおおおおおああああああおおおおいえぇええええい!」
と叫び声でリカの名言をかき消す雲
「…しよ?」
「え?え?なんすか?なんて言ったすか?雲さんの声で聞こえなかったすよ」
とくず餅は雲をゆさぶる。
「っるせー!東京ラブストーリー半角名言でググれカス!」
とくず餅を制し、リカに向かって
「下ネタ禁止だぜぇ」
と低くつぶやく
「なにさ」
と雲に一瞥をくべるリカ。
「私たちは、男と女なの。いつだって愛し合うのが運命じゃないの?」
「あーここにいる面子は、ヒト科の話はなかなか理解しずらいので…」
とリス君が皆の顔を見渡す。
「さ。帰りましょう」
湖上に二人に軽くお辞儀をして退散する一同。
「なんかなー。愛とか言われちゃうとなー」
と携帯をいじりながら朱鷺が言う
「人間みたいに常に発情期じゃないしなー」
発情期って何ですか?と質問してみたいくず餅でしたがまた怒られそうだったので止めた。
きっと、あの女の人が男に人の周りを音もなくぐるぐる回っていたけどあれが発情期ってことなんじゃないかしら。