2016年10月27日木曜日

お磯物語⑤

海苔たちが、タコの周りに集まり、ぐるりと囲んだ。
「おい。タコ!今日は海苔の宴なんだ。お前は入ってくるなよ」
「宴に参加するつもりはないわ。私は、通りすがりのタコよ。ナイス トゥ ミー チュウ」
タコは、ヌメヌメとMC海苔の前にやってきて、足を1本にょろりと差出した。
MC海苔は、セクシーなタコにドキっとした。
「へ、へろー」
と小さい声しか出なかった。
「テンション高いお兄さん、私と大阪行かない?大阪、刺激的よ」
「大阪…?」
浜辺中がざわついた。
「なんで、わざわざ海苔が大阪なんかに行かなきゃなんないんだよ」
味つき海苔がタコにつめよると、他の磯たちもそうだそうだと声を上げた。
「四国はいい所よ。海苔にとっていい環境だわ。でもそれだけでいいのかしら?大阪はエキサイティング。きっと新しい価値観に出会えるわよ!」
味のりは、MC海苔の顔を見た。
「どうすんだ?俺はわざわざ大阪なんか行かなくていいと思うぜ」
MC海苔は、決心した。
「俺、行ってみます」
「よし!決まり!さあ、私の後頭部に乗って!」

MC海苔は、四国の海苔たちに挨拶をして、タコの頭に乗った。
タコはヌメヌメと海に向い、そのまま波に乗った。

MC海苔の胸は期待で踊っていた。なぜか不安はなかった。
振り返ると、四国の浜辺がどんどんと小さくなり、しばらくすると全く見えなくなった。

夜になり、海も空も真っ暗になった。世界中が海苔みたいに見えた。

「朝には大阪港に着くわよ」

タコとMC海苔は大海原を進んでいった。

2016年10月19日水曜日

お磯物語④

海苔ってなんだろう。
俺ってなんだろう。

MC海苔は旅に出た。
全国各地にいる、海苔仲間たちに会って自分のアイデンティティを取り戻そうと思っていた。

まずは、四国へ向った。
四国にいる仲間たちは、温暖な気候と美しくピュアな瀬戸内海で育った海苔だ。
味つけ海苔、青のり、業務用海苔として全国デビューをしている超売れっ子なのに性格も優しく、いつもMC海苔を励ましてくれていた。

「よくきたな!」
焼き海苔のパリッとした笑顔にMC海苔の心はみそ汁に入れた布海苔のように安らかに溶けていった。
「ご無沙汰しています」
「のんびりしていけよ。今日は、仲間たちが集まってるんだ。朝まで飲もうぜ!」

瀬戸内海をバックにビーチでパーティが始まった。
どこからともなく、海苔たちが集まってきた。中にはMC海苔が四国にくると聞いて
広島からやってきた海苔もいた。

海苔の香りしかしなかった。

MC海苔は最高の気分だった。

これだよ!これ!俺はこれじゃなきゃダメなんだ…!

「お前、歌ってんのか?」
味つき海苔が話しかけてきた。
「今は…ちょっと。俺の主張って誰からもリスペクトないっつーか。意味ないっつーか。全然売れなくて意味ないっつーか」
「何言ってんだよ!作り続けなきゃ!お前にはそれしかないだろ?お前には才能があるんだよ。やらなきゃここでおしまいだぜ?バズらせようなんて考え捨ててひたすら曲作りすんだよ」
「は、はい。なんか、相方のご飯が売れちゃって焦っちゃって。俺ってそんなにダメだったのかなって毎日落ち込んで…」
MC海苔は話しながら、溢れる涙を止められなかった。
「でもなんか、俺以外の海苔は売れてる海苔もいるし、俺もなんか色んな食材とfeaturingした方がいいのかなとか思ったり、いっそもう辞めようかなとか思ったり」
MC海苔は皆の前で号泣していた。

すると
「ふ〜ん。あんたテンション高いじゃん」
と話しかけてきた者があった。

タコだった。



2016年10月18日火曜日

お磯物語③

MC海苔は自宅で母親とテレビを観ていた

「ねえ、このイクラ丼のご飯てあんたが一緒に音楽やってた子じゃないの?」
「ああ。そうだよ」
「テレビ出るなんてすごいわねえ。ほら、タモリさんすごく美味しそうにイクラ丼食べてるわよ!」
「別にすごかねえよ。イクラがすごいんじゃねえか…。ご飯なんて誰でもいいんだよ!」
荒ぶるMC海苔の声に母親は肩をすぼめ
「おお怖い怖い」
と、台所へみかんを取りにいった。
あの日から半年経っていた。
セルアウトしたご飯を、テレビで見ない日はなかった。
母親はMC海苔にみかんを渡すと
「あんたもそろそろ就職したら」と言った。
「は?」
「パパの会社で働けばいいじゃないの。パパみたいな立派な『ごはんですよ』になってくれたらママ嬉しいわ」
「嫌だね。なにが『ごはんですよ』だよ。俺たちはごはんじゃねえ。海苔だろ。俺は、おやじみたいな大人が一番嫌いなんだよ!プライドも捨てて、媚売って、ご飯があっての存在みたいなの最低だぜ!」

MC海苔は家を飛び出し、久々に蛤のクラブへ向った。
蛤は、スピリタスを煽りながらMC海苔にお酒を振る舞った。
「なんだよ。お前、また母ちゃんと喧嘩したのか?母ちゃんは大事にしろよマダファカ」
「俺は、ご飯みたくプライドを捨てたくねえ。イクラなんか乗せられてヘラヘラしやがってよ」
「キレイ事言ってんなよ。お前は所詮、金持ちの息子だろうが。ご飯はなあ、ずっと金なくて、自分のとぎ汁飲んで生活してたんだぞ…お前のやりたいことに今まで黙ってついていってたじゃねえかよ。何が『ご飯は固めの芯があるやつ』だ。お前が好きなだけだろ。カレーにあう?お前は一度でも奴にカレー紹介してやったことあんのか?何がプライドだ」
「うるせえ」
「俺たち、食物はなあ、媚び売ってんじゃねえぜ。一緒の食事になることで栄養のバイブス高めあい、旨味成分をリスペクトしあってんだ、高めてねえのはお前だけだマダファカYOメン!」

蛤の貝殻がパカっと開いた。


2016年10月14日金曜日

お磯物語②

MC海苔は、ご飯とスタジオで新曲を作っていた。
しかし、なかなかアイデアが浮かばない。
心の中がもやもやとして曲作りに集中出来ないのだった。
すると、ご飯は、MPC2000から手を離し
「昨日のおかゆのライブ、超ハンパ無かったよな」
しみじみとつぶやいた。
MC海苔は、もやもやがイライラに変わった。
「あ?そうか?俺は全然ピンとこなかったけどな。つーか、あんなぼんやりしたシャウトカマされたら萎えるわ。つーか、食欲なくなるつーか」
ご飯は黙った。
「なんだよ。どうした?」
「なあ、俺たち、おにぎりにならないか?」
「どういうことだよ!」
「今のスタイルじゃ、ダメなんじゃないかな」
MC海苔はご飯を睨んだ。
「何がダメなんだよ!つーか、おにぎりとかダセえこと出来るかよ」
ご飯は真っ直ぐにMC海苔を見た。
「実は、俺、メジャー農家さんから声かかってんだ」
「マジか…。どこのレーベルなんだよ?」
「ササニシキだよ」
「マジか…」
「ササニシキになれば味があっさりしてるから色んな料理になれる。お寿司とかになれるんだ。なにしろササニシキは病気に強いから生活が安定するし。俺、もう若くないから、このまま保証のないインディーズのお米じゃいられないよ。なあ、俺とおにぎりになろうぜ。そうすればお前だってもっと大きいステージに…」
「ごめんだね。俺はセルアウトしねえ。お前1人でメジャーに行けよ」

ご飯の良さを一番分かっているのは自分だと思っていたMC海苔はショックを受けた。
いや、とうとうこの時が来てしまった。
元々、ご飯は海苔と一緒にいなくても引く手数多な食材だ。
ご飯のすべてを包み込むおおらかさと優しさに甘えていた。

「海苔。お前は最高だよ。でも…ごめん。俺は自分の可能性を試したい」

MC海苔は、悔しさ以上に自分の無力さに言葉が出なかった。

明日からは、1人だ。





2016年10月11日火曜日

お磯物語①

「お米は芯があるのが好きな奴プチャヘンザッ!」
深夜のクラブでMC海苔はシャウトした。ステージに立ち続けてもう10年になる。
お米の素晴らしさを皆に知ってほしい。そんな思いを歌に込めている。
MC海苔が好きなのはカレーに良し、お茶漬けに良しのちょっと固めのお米だ。
クラブは毎夜、大盛況。
お米が好きな若者は今も昔もたくさんいる。MC海苔のパリッとした歌声に皆がうっとりとしたものだ。
しかし、今、一番人気があるアーティストはMC海苔ではない。

「おい。いつまであんな曲やるんだよ?」
クラブの支配人である蛤はMC海苔の胸ぐらを掴んだ。
イベントが終わり、客がいなくなったホールで蛤の声だけが響いた。
「米に芯があるのが好きな奴がいるわけねえだろうがッ!ばかやろう!いい加減目を覚ませ!お米はふっくらもちもちやわらか〜いって決まってんだよマダファカ」
スタッフのシジミが床をモップで掃きながら心配そうにMC海苔と蛤を見ている。
「今の若者はなあ、顎が弱いんだよ!固い米なんざ食うわけねえ。お前のご飯(曲)は古いんだよ!ちょっとは時代に合わせろよ」

クラブの外に出ると明るかった。
駅に向おうとした時、
昨夜のメインアクトのおかゆがMC海苔に近づいてきた。
「ちっす海苔さん!今日は勉強させていただきました!」
おかゆは、今渋谷のクラブシーンでもっとも流行っているアーティストである。
胃に優しいフロウと、うめぼしやしゃけなどの重鎮からも愛されヒューチャリングしたナンバーは、どの曲も楽天市場のランキング1位だ。
「今、チーズさんとかシュリンプさんとかに可愛がってもらっていて、来月から全米ツアー行くんすよ」
おかゆの屈託のなさが眩しくてMC海苔は佃煮になってしまいそうだった。
「へー、すごいね」
なんとか声を出したが、自分がなさけなくてしかたがなかった。
「でも、本当は海苔さんと一緒に何かやりたいっす!」
おかゆから後光がさしたようにみえた。
「いや、俺なんかとつるんだら人気なくなっちゃうんじゃない?女ウケしないしさ」
「そんな…、俺、海苔さんにあこがれてこの世界入ったんです!」

昔の俺だろ…、大人気のお前に言われると嫌味に聞こえるぜ。とMC海苔は空を見上げた。そして、
「今日は蒸すな、身体が湿気りそうだから帰るわ」
乾燥材入りのヘッドホンをつけ、おかゆに背を向けた。

2016年2月24日水曜日

人間は少し不真面目

https://www.youtube.com/watch?v=JM5gRMCgPhQ


この曲は、昨年公開されたゆるめるモ!主演映画「女の子よ死体と踊れ」の主題歌として製作された曲です。

私は、映画が好きで映画のサントラCDというものが大好きなので、自分が映画のサントラCDに関わることが出来てすごく嬉しかったです。
朝倉加葉子監督の本作は、今週末に行われるゆうばり国際ファンタステック映画祭でも上映されるので、ご覧になられる予定のある方はぜひ楽しみにしていてください。

DVDになる予定もあるみたいです。

この曲は、作曲はハシダカズマさんですけどもすごくグッときますよね…。
この曲を製作している時期はゆるめるモ!のonly you(これもハシダさん曲)っていうこれまたとんでもない大作を作っている時期でもあったので、大変でした。
よくがんばったよな……。途中で泣きそうになった思い出が……。


寂しい時には寂しいとだけ言えばいいんだよ、みたいな歌詞を書いていきたいな
と思います。大抵皆ピュアな人間なのに、余計な言葉をくっつけてくるよなあと思う。
余計な言葉や気持ちの殻をつるっと綺麗なゆで卵のようにむいてあげたいという目標。





2016年2月12日金曜日

バンドやろうぜ⑦〜ウインナー編

ライブの後、居酒屋で打ち上げが行われた。

「乾杯!」
シャウエッセンが少しかすれた声で叫ぶと、
メンバー達も笑いながらコップに注がれたビールを次々飲み干していった。

「いっや〜!今日もライブ最高だったんじゃね?伊東ハムの社長も超ノリノリだったって話し」
「マジ?ま、そうだろうな〜。今日の俺たちヤバかったもんな!」
「オレも、ファン増えちゃったかも!」
はしゃぐ3人をよそに、シャウエッセンはうつむいていた。
アルトバイエルンがシャウエッセンを気遣うように語りかけた。
「シャウ。大丈夫かよ?まあ、彼女がいなくなって大丈夫なわけないだろうが…。でも、俺たち食物は、いつかは食事になるんだぜ?彼女さん、美味しいトマトスープになれたんだろ?皆、美味しいって喜んでたじゃないか」
シャウエッセンも、それはわかっていたことだった。
「でも…、ライブ観て欲しかったよ」
「…。また新しいトマト探せよ」

打ち上げからの帰り道シャウエッセンは、成功したライブよりもずっとトマトのことを考えていた。

あんな、いい女いねえよ。ごめんな。俺、絶対ビックになるからさ!

アパートに着くと、
たしか、缶ビールが何本があったはずだと冷蔵庫を開けた。
シャウエッセンはまだまだ酔い足りなかった。

すると、缶ビールの横に瓶に入った赤いジャムのような物があった。

ケチャップだ!まさか!

瓶の蓋を開けるとトマトの香りが部屋中に広がった。
トマトが、残してくれた最後のお土産は、シャウエッセンに最もあうトマトケチャップだったのだ。
シャウエッセンは、自分の身体にケチャップを塗りたくり真っ白いパンのような布団に包まった。

その夜は、トマトと一緒にニューヨークでホットドックを食べる夢を見た。



おしまい

2016年1月28日木曜日

バンドやろうぜ⑥〜ハム編〜

ステージに置かれた、3つのハム色のタンバリン。
だいぶ、くたびれている。
三人の努力の証でもあるんだ。

今日ボクはハム工場を休んで、このライブハウスにいる。
そう。Hamumeを見るために!
身体にぎゅっと力が入る。ボクの目は涙でにじんでいた。

「関東工場の工場長!今から泣いてどないしますの?メンバー、驚いてしまうで!」
大声でボクに話しかけ肩を組んできた男がいる。
「あ!関西工場の工場長!いらしたんですか!?」
関西工場長は、ハムで出来た昇り旗を背中にさしている。
「あ!すごい!この旗、ハムで出来てる!」
「せやで。今日は、新生ハムームの記念すべき初ライブや。これぐらいの気合い当たり前や。工場は休みにしたんやで」
その言葉を聞いて、ボクの心がもやっとした。

「新生Hamume」

そうなんだ。ボクは、今までのHamumeが好きだったんだけど、今日からガラっと雰囲気が変わってしまうという噂だ。
「中田ハムタカにオファーしたけど、断られて、ハムスターに頼んだらしいで」
「そんな…。ハムスターが曲を作ったんですか?大丈夫かな」
「でも、そうとうな神曲らしいんや」
「神曲、ですか…」

ライブハウスの照明がふっと消えた。
とうとうHamumeの出番だ!
ボクの心臓は飛び出してしまいそうだ。

三人は、天女のようにステージ場に現れた。
違う…、ボクは思わずつぶやいた。
今までの彼女たちとは目の輝きが違う!
これは、そうとうすごいライブになるぞ。
ボクはそう予感した。

「それでは1曲目。聞いてください!」
「私たちの新曲!」
「コンピューターハム工場!」

♪コンピューター加工食〜!
 基本ピンクじゃないと 食事時に
 チーズじゃないの?と 間違えるの
 求めるものはいつでも 自然食よ 
 食べたら太るだけ…

「な!なんや!この暗い曲は!つーか、うっすらハム否定してるやないか!俺たちの職業も否定されててあかん!」
「関西工場の工場長!おちついて!」
「落ち着いてられまっか!つーか関東工場の工場長、加工食バカにされてくやしくないんでっか!!」
関西工場の言う通りだ。ボクもショックだ!こんな地獄みたいな曲聞きたくないよ!

「それではつづいて2曲目!…チョコレートドーナツみたいなハム!」


曲のタイトルもぐずぐずだし、ボクはどうやって応援していいかわからなかった。
メンバー達がすごくキラキラしているのがボクをより複雑な気分にさせた。

新生Hamumeの重たい地獄の門は今、開いたのだ。