2014年1月15日水曜日

冬物語

「マッチ、マッチはいかがですか…」
雪が降る夕暮れの街で、りっつんは震えながらマッチを売っていた。

何日もこうして寒空の中でマッチを売っているが一つも売れない。
道行く人は、りっつんの声に立ち止まりもせず帰路を急いでいる。

どうしよう…このままじゃ食べる物が買えない…
寒さと飢えで倒れそうになったその時、

「すみません…」
と二足歩行の猫が声をかけてきた。
「すみません…。マッチをわけていただけませんか?」
猫は、焼き芋屋のリアカーを引いていた。
「焼き芋が冷えてしまいまして…火がおこせなくて困っています…」
りっつんは、すぐさまマッチを一本差出し
「どうぞ使ってください」
と猫に渡した。

ありがとうございますと猫はマッチに火をつけてリアカーのたき火口に火をかざした。
ボゥゥと音を立て火が広がり、そのうち焼き芋の美味しい香りがしてきた。

「助かりました。あの…よかったらお礼に焼き芋をどうぞ」
猫はほくほくと煙を上げる芋をりっつんに差出した。
「ありがとうございます!いただきます!」
もう何日もまともにご飯を食べていないりっつんは焼き芋にかぶりついた。
「美味しい!」
「そうですか?たくさんあるので食べてくだいね!」
りっつんは、お腹がいっぱいになると改めて猫をまじまじと見つめた。
「なぜ、二足歩行なんですか?」
猫は、焼き芋の焼き石の位置をずらしながら
「いや〜。ウケるんですよ。こうでもしないと焼き芋売れないんで。でも写真撮るだけの人が多いかなあ…焼き芋、美味しいと思うんですけどね…」
と寂しい笑顔を浮かべた。

「美味しいですよ…あの…僕…猫さんのお芋、感動しました。僕も手伝います!」
「本当ですか…ありがとうございます…」
猫は感激で全身の立毛筋が震え上がった。
「こんな気持ち…初めてだ…ずっと一人で生きてきたから…」
「そうですか…でもこれからは焼き芋の火が消えそうになったら僕が火をつけますよ!」
街はどんどん陽が暮れて冷たい風が吹いていたが二人の未来は明るく温かなものであった。


サンキューベリー…マッチ

と、心の中で繰り返し続けた猫であった。