2016年10月19日水曜日

お磯物語④

海苔ってなんだろう。
俺ってなんだろう。

MC海苔は旅に出た。
全国各地にいる、海苔仲間たちに会って自分のアイデンティティを取り戻そうと思っていた。

まずは、四国へ向った。
四国にいる仲間たちは、温暖な気候と美しくピュアな瀬戸内海で育った海苔だ。
味つけ海苔、青のり、業務用海苔として全国デビューをしている超売れっ子なのに性格も優しく、いつもMC海苔を励ましてくれていた。

「よくきたな!」
焼き海苔のパリッとした笑顔にMC海苔の心はみそ汁に入れた布海苔のように安らかに溶けていった。
「ご無沙汰しています」
「のんびりしていけよ。今日は、仲間たちが集まってるんだ。朝まで飲もうぜ!」

瀬戸内海をバックにビーチでパーティが始まった。
どこからともなく、海苔たちが集まってきた。中にはMC海苔が四国にくると聞いて
広島からやってきた海苔もいた。

海苔の香りしかしなかった。

MC海苔は最高の気分だった。

これだよ!これ!俺はこれじゃなきゃダメなんだ…!

「お前、歌ってんのか?」
味つき海苔が話しかけてきた。
「今は…ちょっと。俺の主張って誰からもリスペクトないっつーか。意味ないっつーか。全然売れなくて意味ないっつーか」
「何言ってんだよ!作り続けなきゃ!お前にはそれしかないだろ?お前には才能があるんだよ。やらなきゃここでおしまいだぜ?バズらせようなんて考え捨ててひたすら曲作りすんだよ」
「は、はい。なんか、相方のご飯が売れちゃって焦っちゃって。俺ってそんなにダメだったのかなって毎日落ち込んで…」
MC海苔は話しながら、溢れる涙を止められなかった。
「でもなんか、俺以外の海苔は売れてる海苔もいるし、俺もなんか色んな食材とfeaturingした方がいいのかなとか思ったり、いっそもう辞めようかなとか思ったり」
MC海苔は皆の前で号泣していた。

すると
「ふ〜ん。あんたテンション高いじゃん」
と話しかけてきた者があった。

タコだった。