2016年10月18日火曜日

お磯物語③

MC海苔は自宅で母親とテレビを観ていた

「ねえ、このイクラ丼のご飯てあんたが一緒に音楽やってた子じゃないの?」
「ああ。そうだよ」
「テレビ出るなんてすごいわねえ。ほら、タモリさんすごく美味しそうにイクラ丼食べてるわよ!」
「別にすごかねえよ。イクラがすごいんじゃねえか…。ご飯なんて誰でもいいんだよ!」
荒ぶるMC海苔の声に母親は肩をすぼめ
「おお怖い怖い」
と、台所へみかんを取りにいった。
あの日から半年経っていた。
セルアウトしたご飯を、テレビで見ない日はなかった。
母親はMC海苔にみかんを渡すと
「あんたもそろそろ就職したら」と言った。
「は?」
「パパの会社で働けばいいじゃないの。パパみたいな立派な『ごはんですよ』になってくれたらママ嬉しいわ」
「嫌だね。なにが『ごはんですよ』だよ。俺たちはごはんじゃねえ。海苔だろ。俺は、おやじみたいな大人が一番嫌いなんだよ!プライドも捨てて、媚売って、ご飯があっての存在みたいなの最低だぜ!」

MC海苔は家を飛び出し、久々に蛤のクラブへ向った。
蛤は、スピリタスを煽りながらMC海苔にお酒を振る舞った。
「なんだよ。お前、また母ちゃんと喧嘩したのか?母ちゃんは大事にしろよマダファカ」
「俺は、ご飯みたくプライドを捨てたくねえ。イクラなんか乗せられてヘラヘラしやがってよ」
「キレイ事言ってんなよ。お前は所詮、金持ちの息子だろうが。ご飯はなあ、ずっと金なくて、自分のとぎ汁飲んで生活してたんだぞ…お前のやりたいことに今まで黙ってついていってたじゃねえかよ。何が『ご飯は固めの芯があるやつ』だ。お前が好きなだけだろ。カレーにあう?お前は一度でも奴にカレー紹介してやったことあんのか?何がプライドだ」
「うるせえ」
「俺たち、食物はなあ、媚び売ってんじゃねえぜ。一緒の食事になることで栄養のバイブス高めあい、旨味成分をリスペクトしあってんだ、高めてねえのはお前だけだマダファカYOメン!」

蛤の貝殻がパカっと開いた。