2014年8月22日金曜日

幽霊会議②

この燃えたぎる炎のように人を好きになりたい。

典子は、目の前の焚き火にまた一つ薪を焼べた。
すると炎はまた少し、天に延びた。

「私たち、もう別れない?」
タカシは、驚いて典子を見た。
「え?何で?」
「ダメだと思う…私達…価値感が違うんだと思うわ…」

タカシは、手に持っていた細い枯れ枝をぐっと握りしめた。
「…焼きおにぎりのこと…まだ怒ってるのか?」
先ほど、二人は喧嘩をした。
タカシは典子が、典子はタカシが塩むすびを持ってきていると思い込んでいた。
キャンプのクライマックスは焚き火で作る焼きおにぎりだったのだ。

「そんな…じゃあ、今からコンビニ行っておにぎり買ってくるよ」
「こんな山奥にコンビニがあるわけないでしょう」
「でも…俺がおにぎり忘れたから…ていうか俺は典子が持ってきてくれるかと思っていたわけだけれども…つーか…そんなことで別れるとかいうなよ!」
タカシは、枯れ枝を炎の中に投げつけた。

「大きい声出さないでよ。タカシっていつもそう!野蛮なのよ!」
「なんだよ!野外でキャンプしようって奴が野蛮じゃなくてどうするんだよ。くそ!」
二人の声が暗い山にこだまする。
「そうだよ。俺は野蛮だ!もう典子の好みの草食系男子は金輪際お断りだ!このくそ暑い真夏に長袖Tシャツ着てられっか!」
タカシは着ていた長袖を脱ぎすてて焚き火の中へ投げ込んだ。
「ちょっと!私があげたセントジョームスのボーダーTシャツに何するの!最悪…最悪よ」
典子は泣き出した。
「んだよっ。泣くなよ!ちょっと車でおにぎり買ってくるからさ!」
典子は顔を覆って泣いており、タカシの方を見もしない。

タカシは上半身裸で、車に乗った。

コンビニなんかなかったけど、車を走らせた。


夜の山道は真っ暗だ。
車のヘッドライトの明かりの先の暗闇はいつまで続くのか、タカシにはわからなかった。

気がつくと道が二股に別れていた。

タカシは、車を止めた。

おかしい。来た時は一本道だったはずだ。
なんだか、嫌な予感がした。

タカシは手にじっとりと汗をかいた。