2013年9月28日土曜日

戦えメガネ男子レンジャー①

レッドは、部室でファーブル昆虫記を読んでいたが、いきなり雑誌を地面に叩き付けた。
そして、メガネを外し頭を抱えた。
「どうした?」
隣で、メガネを磨いていたブルーが声をかけた。
「週末に、クラブに行ったらエミネムに彼女取られた」
「え?エミネム?エミネムってあの?ええっ!エミネムって今、日本に来てるの?」
レッドの睡眠不足で真っ赤を目には、うっすら涙が浮かんでいる。
「そうだよ!エミネムにあいつのこのこついていっちゃってさあ。電話も繋がらないし…ああ。やっぱり俺みたいなメガネをかけた人間が薄暗いクラブなんか行ったからバチが当ったんだ…」
ブルーは、レッドが落としたファーブル昆虫記を拾い
「そんな…メガネのせいじゃないよ。ラムちゃんの、あのへそ出しルックが良くなかったんだよ」
と、表紙のオオヤマトンボの幼虫のイラストを擦った。
「宇宙人だから変温なんだよ!ううう。ラムちゃんがいないと生きる意味がないよ!」
その時、部室にパープルが入ってきた。
「エミネムがどうかしたか」
「パープル、聞いてくれ。今、日本にお忍びでエミネムが来てるぞ!」
「エミネムって、映画の8マイルの人?」
「そうそう!そんで、レッドがラムちゃん盗られたらしい」
「くそー。有名人だからって人の彼女に手を出すなんてひどいよ!」
「8マイルの人に、彼女取られた?」
レッドはがっくりうな垂れている。
パープルは、昨日、眼鏡市場で新調したばかりのメガネにそっと触れた。

「そうか。じゃあ奪い返しにいこうぜ」

「パープル…」
「8マイルで、エミネムさんだって彼女盗られて、取り返してたぞ」
「そうだけど…。無理だよ…さすがに…どうやって…」
その時、廊下から
「ラップじゃないですか?」
という声が聞こえた。
そして、カチャっと音を立て部室の扉が開き、
松屋のカレー牛皿のテイクアウトを片手にイエローが入ってきた。
「エミネムと言えばHIPHOPのラップだよ!フリースタイルを仕掛けるんだよ!」
イエローのメガネは興奮で曇っていた。
「無理!」
レッドは即答した。
「俺、音楽の成績1なんだから!それに、俺は決められたレールの上を歩くのが大好きなんだ。フリーなスタイルが俺の中でトレンドになったことなんか一度もないっ」
イエローは、牛カレーを食べるためのプラスチックスプーンをぽきりと折った。
「じゃあ、ラムちゃんがどうなってもいいのかよ!」
レッドは唇をなめた。
「ううう…。よくないよ。ラップかよ。まいったな。今すぐ返せ俺の彼女…。お前、頭どうかしてるぞ…とかどうかな…」
全員がううーんと唸った。
そして、しばらくの沈黙の後
「あやまろう!」
ブルーが口火を切った。すると、皆次々と
「そ、そうだな!精神誠意謝ろう!」
「うん。それがいいよ。日本人のへりくだった姿勢なめんなよ!」
レッドは立ち上がり
「よ〜し!まってろエミネム!今(謝りに)行くぞ!」
と、威勢良く部室を飛び出し、皆も後に続いた。

皆の心はいつでも一つ、


「裸眼のやつに、負けるわけにはいかないんだ!」