2016年2月12日金曜日

バンドやろうぜ⑦〜ウインナー編

ライブの後、居酒屋で打ち上げが行われた。

「乾杯!」
シャウエッセンが少しかすれた声で叫ぶと、
メンバー達も笑いながらコップに注がれたビールを次々飲み干していった。

「いっや〜!今日もライブ最高だったんじゃね?伊東ハムの社長も超ノリノリだったって話し」
「マジ?ま、そうだろうな〜。今日の俺たちヤバかったもんな!」
「オレも、ファン増えちゃったかも!」
はしゃぐ3人をよそに、シャウエッセンはうつむいていた。
アルトバイエルンがシャウエッセンを気遣うように語りかけた。
「シャウ。大丈夫かよ?まあ、彼女がいなくなって大丈夫なわけないだろうが…。でも、俺たち食物は、いつかは食事になるんだぜ?彼女さん、美味しいトマトスープになれたんだろ?皆、美味しいって喜んでたじゃないか」
シャウエッセンも、それはわかっていたことだった。
「でも…、ライブ観て欲しかったよ」
「…。また新しいトマト探せよ」

打ち上げからの帰り道シャウエッセンは、成功したライブよりもずっとトマトのことを考えていた。

あんな、いい女いねえよ。ごめんな。俺、絶対ビックになるからさ!

アパートに着くと、
たしか、缶ビールが何本があったはずだと冷蔵庫を開けた。
シャウエッセンはまだまだ酔い足りなかった。

すると、缶ビールの横に瓶に入った赤いジャムのような物があった。

ケチャップだ!まさか!

瓶の蓋を開けるとトマトの香りが部屋中に広がった。
トマトが、残してくれた最後のお土産は、シャウエッセンに最もあうトマトケチャップだったのだ。
シャウエッセンは、自分の身体にケチャップを塗りたくり真っ白いパンのような布団に包まった。

その夜は、トマトと一緒にニューヨークでホットドックを食べる夢を見た。



おしまい