不可解な成り行きだったが、それでも音楽を続けられると思うと
嬉しくてたまらない。
神は、俺を見捨てていなかった!
牢屋では出会うことのなかった晴れ渡る青空を見上げて
とっとこは、Hamume の打ち合わせに向っていた。
どんなコたちなんだろう?
俺の曲を気にいってくれるだろうか…。
期待と不安で胸を膨らませ南青山の真ん中にある高級マンションの一室
のインターフォンを押した。
するとすぐに、
「はあい!」
と部屋の奥から声が聞こえた。ドアが開くと、
都内某有名お嬢様女子高の制服を着た驚くほどかわいい女の子3人がとっとこを迎えた。
「とっとこさんですか?初めまして!さあ、こちらへどうぞ!」
とっとこは、3人に囲まれ、思わずぽーっとした。
思わずむきっと前歯が出てしまうのをなんとか堪えながら、彼女たちの後について長い廊下を歩いた。
一番奥の部屋は信じられないほどゴージャスな空間だった。
とっとこがふかふかなソファに腰掛けると、横からそっと紅茶が出された。
とっとこの前に3人の少女が座る。
ロングヘヤのハム。
ポニーテールのハム。
ボブのハム。
皆、美しいハム少女たちだ。
「早速ですが、曲をお聞かせ願いますか?」
ポニーテールハム少女がニッコリと微笑む。
「は、はい!」
とっとこは、自作の曲を録音してきたCD−Rを渡す。
そして、ポニーテールハムはそれを両手で受け取り、高級オーディオにセットしてスイッチを押す。
ぽゆーん。しゃんしゃんしゃん。
イントロから美しく、かわいい曲でとにかくキラキラしたポップな曲だ。
歌詞は、とことん甘く歯ごたえのある恋愛ソング。
結構な自信作なのだがどうだろう…。
曲が終わると、しんと静まりかえった。
「どうでしょうか…」
おそるおそるとっとこは聞いてみるが
三人の顔は、少し困っているようだ。
気にいってもらえなかったか。
「とても素敵な曲だと思います。」
「え!?ありがとうございます!」
「でも。これじゃダメだわ。」
ロングヘアのハムはうつむいて言った。
「どういうことでしょうか…。」
とっとこは混乱してきた。
ポニーテールハムは悲しげな瞳をして語りだした。
「私たち、ハムの行く末をご存知ですか?
私たちは、今、高校3年生です。高校を卒業したハムは、新鮮ではないと判断され
ハムカツにされてしまいます。分厚い衣に覆われて、私たちはちりじりばらばらになるでしょう。」
ボブハムは泣き出して後に続けた。
「私たちは、小さい頃から立派なハムになるように英才教育を受けてきました。美しい肌色、ほどよい塩分。蝶よ花よと育てられてきたきたのに、ハムカツになる運命だなんて」
「ハムカツになったら誰が私たちの顔に誰が興味持ちますか?皆、ソースのことしか考えないわ。私たちが美しい姿でいられるのはあとちょっと。この姿を世間の皆様に覚えていただきたいの。そんな曲になりませんか?」
三人のハムは、身体を寄せ合って泣いた。
重なり合った3枚のハムは、夜露に濡れた薔薇の花のようであった。
とっとこは、目の前が真っ暗になるほどのショックを受けた。
どうやってマンションを出たか覚えていない。
気がつくと、家に向って走っていた。
こんな曲じゃダメだ!
思い出になる曲?それもダメだ!
彼女たちの未来を変える曲じゃなくっちゃ!
彼女たちはずっとハムでいたいんだ!
とっとこの目からは涙があふれ、いつのまにか4足歩行で全力で走った。
タタタ
人は俺を馬鹿にするだろう。
ハムスターがテクノ音楽を作るなんて歴史はない。
世の中は、彼女たちを罵るだろう。
ハムが、ライブハウスで歌うなんて前例はない。
でも、前例がないのが音楽のはずだ!
馬鹿にされたって貫き通すのが芸術のはずなんだ。
とっとこは自己表現だけで曲を作っていた自分を恥じた
そして、部屋に着くなり3日、食事も取らず寝ずに3曲を作った。